ポケモンGOが大流行です。前評判通り、日本にリリースされたとたんに、街中にはスマホ片手にモンスターを探し回る人たちで溢れかえりました。私のFacebookのタイムラインも、ポケモンGOで遊んでいる人たちのコメントでいっぱいの状況です。ここまできたら、さすがに、ひねくれ者の私も「これはやらなきゃ乗り遅れるな」という焦りに襲われています。なので、ここはコンサルタントらしく、ポケモンGOがもたらす今後のトレンドについて、ごちゃごちゃと語りたいと思います。
まず、今、騒がれているゲーム中の“歩きスマホ”や“不法侵入”の問題に関しては、いずれ時間とともに解決されていくと思います。もちろん、それまでにクルマにはねられたり、入っちゃいけないところに入ってニュースになったりする人が出てくるとは思います。しかし、しょせんは人が作ったゲームです。どこかで制御が保たれたり秩序が守られたりするでしょう。過去の歴史を振り返ってみても、新しい文化の波が押し寄せてくると、大なり小なり、必ずトラブルは起きるものです。そして、それらの問題はほとんど解決されてきました(というよりかは、仕方ないよね、で許されてきた)。なので、そこらへんの周辺のトラブルに関しては、さして大きな流行の障壁にはならないと思います。
それよりも、気になるのは既存のスマホゲームの“今後”です。ポケモンGOの登場で、従来のスマホゲームが明らかに「旧型」になってしまいました。もっとも、種類がまったく違うゲームなので、両者は棲み分けされながら共存していくとは思います。しかし、AR(拡張現実)と位置情報ゲームを組み合わせて、現実世界と仮想世界を結びつけてしまった刺激的なポケモンGOの登場で、従来のゲームを「しょぼい」と思ってしまうユーザーは、ある程度、流出するとは思います。なので、ゲーム業界の勢力図は、今後、再び混迷していくことが予想されます。
そうなると、次に気になるのが“ポスト・ポケモンGO”の登場です。
ポケモンGOが一過性のブームで終わらない場合、当然のことながら、他メーカーが類似の位置情報ゲームをリリースしてくると思います。この場合、ゲームになる条件としては「何かを探したり、敵を倒したりする」ということが大前提となり、加えて「こういう仮想の登場人物が、現実の世界にいたら面白いよね」という憧れの世界観が必要になります。
そのような条件から考えると、次にゲームになる可能性があるものは、既存のアニメやマンガが主体となる可能性が高いでしょう。「ドラゴンボール」や「妖怪ウオッチ」等の、ある一定数のファンが確定していて、なおかつキャラクターが可愛いアニメがテーマとして扱われやすいと思います。また、「ワンピース」や「ガンダム」「スターウォーズ」がリリースされた暁には、おそらく、世の中、お祭り騒ぎになるでしょう。ええ、死者が出るぐらいの騒ぎになると思います。
このような事情を考えれば、数年後には、現実世界と仮想世界を繋ぎ合わせた位置情報ゲームは、今以上に華やいだ世界になることが考えられます。新宿の繁華街に高層ビルよりも大きいゴジラを登場させたり、渋谷のスクランブル交差点に、アニメのイケメンキャラの男子に闊歩させたり。これがさらにエスカレートしていくと、仮想の彼女とデートをしたり、仮想の猫を飼育したり、位置情報を使ったゲームは、着々と人の癒しや、生活の中に食い込んでいくと思います。ARと位置情報を組み合わせた今回のゲームの登場は、私たちのライフスタイルを大きく変える可能性を含んでいるといえます。まぁ、少し夢の膨らませ過ぎかもしれませんが。
さて、次にポケモンGOが商売に与える影響について考えてみたいと思います。
今回、ポケモンGOはマクドナルドと組んで、うまくお金儲けにも結びつけようと頑張っています。お客さんを店舗に誘導することができますから、集客ツールとしてポケモンGOは使えるのではないかと予測する人も多いです。類似例としては、コロプラが位置情報ゲームをうまく活用して、販促と結びつけましたから、理論的には、ポケモンGOは実店舗への集客ツールとしても活用することは可能だとは思います。
しかし、今回の場合は、ゲームと実商売を連結させるためにはコストがかかりそうな上に、日本全国にチェーン展開しているような大企業でなければ、このような位置情報ゲームの恩恵は受けづらいのではないかと思います。専門家ではないので詳しくは分かりませんが、コロプラと違って、セッティングがものすごく大変そうなイメージもありますので、一般的な中小企業では、ポケモンGOとコラボレーションをして販促を展開することは、ちょっと難しいような気がします。
ただ、今後、例えばですが、イオンモールの中に、割引券やポイントカードを持ったモンスターがいて、それをゲットしながらいろいろなお店を回ってみるという販促手法が登場するかもしれません。また、楽天市場に出店している実店舗持ちのネットショップに、楽天ポイントを抱えたモンスターを配置させて、それを退治しながら実店舗を回っていくような販促も登場してくるかもしれません。
しかし、基本的には、このようなバーチャルで刺激的なゲームに参加する人は、ゲームの目的以外であまりお金を使いませんし、リピーターになる可能性はかなり低くいと思った方がいいでしょう。たとえるのなら、サバゲーやっている人たちに、戦闘中に無理矢理アロハシャツを売りつけるようなものです。おそらく、話題性はあっても継続性のある販促にはならないのが現実だと思います。
むしろ、ゲームに夢中になり過ぎて、商品や店内の情報に対して集中力を欠いてしまうお客さんが増える可能性があります。これは非常にやっかいな問題です。売り手側にとったら、このようなバーチャルなゲームの登場は、マイナス面のほうが大きいような気がします。リアル店舗やネットショップの経営者は、今後は、スマホ画面から目が離せなくなったお客さんに対して、いかに振り向いてもらえるか、いろいろ考えていかなくてはいけません。
もう少し、マイナス面の話をさせてもらっていいでしょうか。
現在、多くのマスコミでは、ポケモンGOの登場で「部屋で引きこもってゲームをやっていた人たちが、外に出て行くようになる」ということを強調しています。麻生大臣も、インタビューで「オタクが外に出る」というような発言をしていました。
しかし、これに関しては、私は逆なのではないかと考えています。ゲームの世界が外に飛び出したのではなく、外の世界が、ゲームの世界に飲み込まれただけだと思います。つまり、部屋の中に引きこもっていた人が、外の世界に出て引きこもっただけだと思うんですね。
そうなると、今まではゲームの“こっち側”と“あっち側”で線が引かれていて、なんとかケジメがつけられていましたが、その線引きが難しくなってしまい、ゲームをやっているのか、日常生活を送っているのか、グダグダになってしまう人が続出するのではないかと思います。
例えば、会話をしている最中にモンスターを探しはじめたり、友達と旅行に行ったのに、ずっとモンスター探しに夢中になってしまったり。ひどくなると「ここにモンスターがいるんじゃないか」と気になって、四六時中スマホをかざし続けなくては精神が不安定になるような、中毒症状の人が出てくる可能性は、十分にあると思います。もちろん、今現時点のポケモンGOのゲームだけでは、そのような社会現象は起きないと思います。しかし、いろいろなタイプのARと位置情報ゲームを組み合わせたゲームが登場すれば、そのような、集中力を消失させた“アウトドアな引きこもり”が続出する可能性はあると思います。
極論を言えば、仮想空間に居心地の良さを感じてしまう人が増えてしまったら、服や食事のような現実世界の消費は節約して、仮想空間のアイテムだけに課金していく人が増えるかもしれません。今は街の中にモンスターが出てくるだけの単純な仕組みかもしれませんが、技術力が発展していけば、数年後には目の前に森を作ったり、お城を作ったりすることも可能になってくると思います。そうすると、そこにグーグルグラスのようなメガネをかけて、心地の良い仮想世界で暮らす人が出てくるかもしれません。
海外のバックパッカーのような未知の世界とふれあう旅の楽しさが、仮想空間で楽しめるわけですから、さらに海外旅行に行く人は減るかもしれませんね。また、高いお金を払ってディズニーランドやUSJに行かなくても、ハラハラドキドキの楽しさが味わえるポケモンGOをやる人のほうが増えていくかもしれません。そもそも、「お金を使わずに楽しみたい」という消費者と「スマホゲーム」は相性がいいですから、余暇のお金の使い方には、なにかしら影響が出てくると思います。
生活の欲求を満たすものは、すべて仮想空間のアイテムで済まされてしまい、現実世界でお金を使う人が減っていくというのも、あながち、考えられない世界ではないと思います。仮想空間と現実世界のお金の使い道がボーダレスになることは、ちょっと商売人にとったら恐ろしい話だったりするわけです。
こじつけっぽい話になりますが、もしかしたら、今回のポケモンGOのブームは、実店舗とネットショップの垣根を越える「オムニチャネル」や「OtoO」の考え方と同じなのかもしれません。“ネットでも実店舗でもどっちでも買えればいい”という現実社会と仮想社会の融合は、まだ現実世界で暮らす消費とうことで、商売人にとってもメリットのある考え方でした。しかし、今回の場合は、消費そのものが仮想社会に移行してしまうという危険性もはらんでいます。そのような事情を考えると、ちょっと先を見据えて、私たち商売人は危機意識を持って、今回のポケモンGOを見守る必要があるかもしれません。
少し大げさな話になってきていますね。
まるで過去に大失敗したセカンドライフのような話になってきました(笑)。しかし、20年前、まさか電話代(スマホ代)に、こんなにお金を使う時代がやってくるとは、誰も想像していませんでした。でも、今は友達とのコミュニケーションにはお金を使いますが、車を買ったり、スキーに行ったり、バイクに乗ったりする現物の消費に対しては、お金を使いたがらない人が増えています。これも、形のない“コミュニケーション”という仮想空間に消費が奪われたひとつの事例といえます。
もちろん、これらの話は極論ではあります。ただ、個人的には、仮想の世界と現実の世界をくっつけてしまったことは、消費の世界だけで言わせてもらえれば、あまりいいことではないのではないかと思っています。
しかし、現状、スマホゲームが登場してから、極端に、私たち小売業の売上が落ちたという事実はありませんし、過去にインベーダーゲームやドラクエが流行ったからといって、近所の八百屋や魚屋の売上が落ちてしまったというバカな話は存在していません。また、すべての人がポケモンGOをやるわけではなく、当然、飽きてしまう人もいるわけですから、消費行動の根底から何か覆されるような出来事にはならないと思います。
また、このような極端なブームというものは、反動で急激に萎んでいくというのが世の常だったりします。“たまごっち”のように、一時期は世間が狂ったように熱中しますが、パッと冷めてしまう可能性だってゼロではありません。
そう考えると、まだまだ、今後の展開の予測がつかない、ハラハラドキドキのポケモンGOではあります。ゲームを楽しむだけではなく、商機やブームの視点から、この新しいゲームを考察していくと、また違った楽しみ方があるかもしれません。